Schwartzの不等式の証明
Schwartzの不等式
何度もやっているのだが、久しぶりにやってみて試行錯誤してしまったので、備忘用に証明を書き留めておく。
「Schwartzの不等式」もしくは「Cauchy-Schwartzの不等式」とは、内積に関する次の不等式である。
ここで、
によって定義される。
用語の定義
Schwartzの不等式は、内積の持つ性質から導かれる。 したがって、ここで用語の定義を見つつ、内積の性質を復習する。
内積と複素内積(Hermite内積)では、微妙な部分で違いがあるので注意が必要である。
以下では、
「実ベクトル空間上の正定値かつ非退化な対称双線型形式」を実内積と呼び、「複素ベクトル空間上の正定値かつ非退化なHermite対称半双線型形式」を複素内積と呼ぶことにする。
単に内積といった場合は、考えているベクトル空間の係数体が
より正確な内積の定義は以下のようになる。
Def 1: 線型写像 (linear map)
写像
Def 2: 線型形式 (linear form)
Def 3: 双線型形式 (bilinear form)
写像
Def 4: 半双線型形式 (sesquilinear form)
写像
が以下を満たすとき、半双線型形式と呼ばれる。
スカラー倍が、そのもののスカラー倍ではなく、複素共役のスカラー倍に移るところが、ふつうの線型と異なっているところである。
なお、日本語では半双線型と呼ばれるが、英語ではsesquilinearすなわち「1と1/2線型」であり、こちらのほうが実情に近いように思われる。
Def 5: 実内積
双線型形式
1つ目の性質を対称性といい、2つ目の性質を正定値性といい、3つ目の性質を非退化性という。
Def 6: 複素内積
半双線型形式
1つ目の性質をHermite対称性といい、2つ目の性質を正定値性といい、3つ目の性質を非退化性という。
Rem 1: 非退化性の逆
内積について、非退化性の逆
は、(半)双線型性のみから、次のように簡単に導かれる。
したがって、
Q.E.D.
ゆえに、内積において、
である。
Def 7: 内積空間 (inner product space)
実ベクトル空間上で内積といった場合、実内積を意味するものとする。
複素ベクトル空間上で内積といった場合、複素内積を意味するものとする。
ベクトル空間と内積の組
内積
この場合、内積は二項演算
Def 8: ノルム (norm)
内積空間
を
ノルムは長さ概念の一般化であり、この意味で内積空間は計量ベクトル空間ともいう。
実内積に関するSchwartzの不等式の証明
を考える。内積の正定値性から、
である。
一方、内積の双線型性と対称性から、
と展開される。
これを、
が得られる。
この不等式で等号が成立するのは、
に解が存在する場合である。
これは、内積の非退化性から、
すなわち、
複素内積に関するSchwartzの不等式の証明
を考える。内積の正定値性から、
である。
一方、内積の半双線型性とHermite対称性から、
と展開される。
と
である。
となる。
これを、
が得られる。
この不等式で等号が成立するのは、方程式
に解が存在する場合である。
これは、内積の非退化性から、
すなわち、
複素数
角度
Schwartzの不等式の両辺の平方根を取ることで、ただちに以下が導かれる。
Def 9: 実ベクトルのなす角
を満たす実数
三角不等式
Schwartzの不等式から、次の三角不等式が得られる。
ついでながら、この重要な定理も証明しておこう。
Q.E.D.