Schwartzの不等式の証明

目次

Schwartzの不等式

何度もやっているのだが、久しぶりにやってみて試行錯誤してしまったので、備忘用に証明を書き留めておく。

「Schwartzの不等式」もしくは「Cauchy-Schwartzの不等式」とは、内積に関する次の不等式である。

$$ |x \cdot y| ^ 2 \le \| x \| ^ 2 \| y \| ^ 2 $$

ここで、$x, y$は内積空間の要素であり、$\cdot$は内積を表す。

$|\cdot|$は実数(複素数)に関する絶対値であり、$\|\cdot\|$は内積から導かれるノルム、すなわち、

$$ \| x \| = \sqrt{x \cdot x} (\ge 0) $$

によって定義される。

用語の定義

Schwartzの不等式は、内積の持つ性質から導かれる。 したがって、ここで用語の定義を見つつ、内積の性質を復習する。

内積と複素内積(Hermite内積)では、微妙な部分で違いがあるので注意が必要である。

以下では、 「実ベクトル空間上の正定値かつ非退化な対称双線型形式」を実内積と呼び、「複素ベクトル空間上の正定値かつ非退化なHermite対称半双線型形式」を複素内積と呼ぶことにする。 単に内積といった場合は、考えているベクトル空間の係数体が$\mathbb{R}$か$\mathbb{C}$かによって実内積もしくは複素内積を意味するものとする。

より正確な内積の定義は以下のようになる。

Def 1: 線型写像 (linear map)

$V, W$を体$K$上のベクトル空間とする。

写像$f: V \to W$は、次の性質を満たすとき線型写像と呼ばれる。

$$ f(x + y) = f(x) + f(y) $$

$$ f(cx) = cf(y) $$

$f$は線型空間の構造を保つ準同型であると考えられる。

Def 2: 線型形式 (linear form)

$V$を体$K$上のベクトル空間とする。

$K$は自然に$K$上の一次元ベクトル空間と見ることができる。

$V \to K$の線型写像を線型形式(一次形式)という。

Def 3: 双線型形式 (bilinear form)

$V$を体$K$上のベクトル空間とする。

写像$f: V \times V \to K$は、第二の引数を任意に固定したとき第一の引数について線型形式であり、かつ、第一の引数を任意に固定したとき第二の引数について線型形式であるとき、 双線型形式と呼ばれる。

Def 4: 半双線型形式 (sesquilinear form)

$V$を複素数体$\mathbb{C}$上のベクトル空間とする。

写像$f: V \times V \to \mathbb{C}$は、第二の引数を任意に固定したとき第一の引数について線型形式であり、かつ、第一の引数を任意に固定した第二引数に関する写像

$$ f_a: V \to \mathbb{C} \qquad x \mapsto f(a, x) $$

が以下を満たすとき、半双線型形式と呼ばれる。

$$ f_a(x + y) = f_a(x) + f_a(y) $$

$$ f_a(cx) = \overline{c}f_a(y) $$

スカラー倍が、そのもののスカラー倍ではなく、複素共役のスカラー倍に移るところが、ふつうの線型と異なっているところである。

なお、日本語では半双線型と呼ばれるが、英語ではsesquilinearすなわち「1と1/2線型」であり、こちらのほうが実情に近いように思われる。

Def 5: 実内積

$V$を実数体$\mathbb{R}$上のベクトル空間とする。

双線型形式$f: V \times V \to \mathbb{R}$が次を満たすとき、$f$は$V$上の内積と呼ばれる。

$$ f(x, y) = f(y, x) $$

$$ f(x, x) \ge 0 $$

$$ f(x, x) = 0 \implies x = 0 $$

1つ目の性質を対称性といい、2つ目の性質を正定値性といい、3つ目の性質を非退化性という。

Def 6: 複素内積

$V$を複素数体$\mathbb{C}$上のベクトル空間とする。

半双線型形式$f: V \times V \to \mathbb{C}$が次を満たすとき、$f$は$V$上の内積と呼ばれる。

$$ f(x, y) = \overline{f(y, x)} $$

$$ f(x, x) \ge 0 $$

$$ f(x, x) = 0 \implies x = 0 $$

1つ目の性質をHermite対称性といい、2つ目の性質を正定値性といい、3つ目の性質を非退化性という。

Rem 1: 非退化性の逆

内積について、非退化性の逆

$$ x = 0 \implies f(x, x) = 0 $$

は、(半)双線型性のみから、次のように簡単に導かれる。

$$ f(0, 0) = f(0 + 0, 0) = f(0, 0) + f(0, 0) $$

したがって、

$$ f(0, 0) = 0 $$

Q.E.D.

ゆえに、内積において、

$$ f(x, x) = 0 \iff x = 0 $$

である。

Def 7: 内積空間 (inner product space)

実ベクトル空間上で内積といった場合、実内積を意味するものとする。

複素ベクトル空間上で内積といった場合、複素内積を意味するものとする。

ベクトル空間と内積の組$(V, f)$を内積空間という。

内積$f$が文脈上明らかな場合は、ベクトル空間$V$を内積空間という。

この場合、内積は二項演算$\cdot$を用いて表す。

Def 8: ノルム (norm)

内積空間$V$において、

$$ \| x \| = \sqrt{x \cdot x} (\ge 0) $$

を$x$のノルムという。

ノルムは長さ概念の一般化であり、この意味で内積空間は計量ベクトル空間ともいう。

実内積に関するSchwartzの不等式の証明

$t$を実数とし、

$$ \| tx + y || $$

を考える。内積の正定値性から、

$$ \| tx + y || ^ 2 \ge 0 $$

である。

一方、内積の双線型性と対称性から、

$$ \| tx + y || ^ 2 = (tx + y) \cdot (tx + y) = t^2 \| x \| ^ 2 + 2 t (x \cdot y) + \| y \| ^ 2 $$

と展開される。

これを、$t$に関する2次関数とみなして、判別式を考えると、

$$ (x \cdot y) ^ 2 - \| x \| ^ 2 \| y \| ^ 2 \le 0 $$

が得られる。

この不等式で等号が成立するのは、$t$に関する2次方程式

$$ \| tx + y || ^ 2 = 0 $$

に解が存在する場合である。

これは、内積の非退化性から、$tx + y = 0$なる$t$が存在することにほかならない。

すなわち、$x$と$y$が線型従属である場合に相当する。

複素内積に関するSchwartzの不等式の証明

$t$を複素数とし、

$$ \| tx + y || $$

を考える。内積の正定値性から、

$$ \| tx + y || ^ 2 \ge 0 $$

である。

一方、内積の半双線型性とHermite対称性から、

$$ \| tx + y || ^ 2 = (tx + y) \cdot (tx + y) = |t|^2 \| x \| ^ 2 + 2 \Re(t (x \cdot y)) + \| y \| ^ 2 $$

と展開される。

$$ t = r e^{i\theta} \qquad (r \ge 0, \theta \in \mathbb{R}) $$

と$t$を極形式で書くと、

$$ \| tx + y || ^ 2 = r^2 \| x \| ^ 2 + 2 r \Re(e^{i\theta} (x \cdot y)) + \| y \| ^ 2 $$

である。

$r$を固定して$\theta$を動かすことを考えると、 $\| tx + y || ^ 2$が最小になるのは、$\Re(e^{i\theta} (x \cdot y))$が最小になるときであり、 それは、$\theta$が$\overline{x \cdot y}$の偏角からちょうど$\pi$ずれたときに起こる。このとき、

$$ \| tx + y || ^ 2 = r^2 \| x \| ^ 2 - 2 r |x \cdot y| + \| y \| ^ 2 $$

となる。

これを、$r$に関する2次関数とみなして、判別式を考えると、

$$ |x \cdot y| ^ 2 - \| x \| ^ 2 \| y \| ^ 2 \le 0 $$

が得られる。

この不等式で等号が成立するのは、方程式

$$ \| tx + y || ^ 2 = 0 $$

に解が存在する場合である。

これは、内積の非退化性から、$tx + y = 0$なる$t$が存在することにほかならない。

すなわち、$x$と$y$が線型従属である場合に相当する。

複素数$t$に関する条件を実数$|t|$に関する条件にうまく還元して、実内積と同等の式に帰着するのがポイントである。

角度

Schwartzの不等式の両辺の平方根を取ることで、ただちに以下が導かれる。

$$ |x \cdot y| \le \| x \| \| y \| $$

Def 9: 実ベクトルのなす角

$x, y$を実ベクトルとして、

$$ x \cdot y = \| x \| \| y \| \cos{\theta} $$

を満たす実数$\theta$が存在する。$\theta$を$x, y$のなす角という。

三角不等式

Schwartzの不等式から、次の三角不等式が得られる。

$$ \| x + y \| \le \| x \| + \| y \| $$

ついでながら、この重要な定理も証明しておこう。

$$ (\| x \| + \| y \|) ^ 2 = \| x \| ^ 2 + \| y \| ^ 2 + 2 \| x \| \| y \| \ge \| x \| ^ 2 + \| y \| ^ 2 + 2 | x \cdot y | \ge \| x \| ^ 2 + \| y \| ^ 2 + 2 \Re (x \cdot y) = \| x + y \| ^ 2 $$

Q.E.D.